話を聞くということは、案外難しいものです。話し手が話したいのに対して、聞き手は必ずしも話を聞きたいわけではありません。もちろん限られた時間の中で行うビジネス上のやり取りは、お互いにとって大切なものの筈ですが、聞き手の反応次第で良くも悪くもなるのです。
たとえ仕事の打ち合わせであっても、相手の顔も見ずにいきなり話し始めるという人は少ないでしょう。もちろん上司への報告や同僚とのいつものやり取りでは、そんな配慮も不要かもしれません。しかし例えば初対面の場合には、お互いに話の糸口を掴もうと、まずは時候の挨拶などといった、話しやすく答えやすい話題を持ち出すのが通常です。
そしていくらか会話が続いたところで、本題に入ります。話し手はその場でどのような内容をどのような形で展開しようかと、あれこれ考えていることでしょう。しかし話し手は十分よく知っている内容を伝えるため、展開次第では聞き手にとっては足りない情報を、聞き手が上手く引き出さなければならないこともあります。話し手は時間が足りなくなるのではないか、との恐れもあって、自分が話すことに夢中になりがちです。そのような場合に聞き手が頷くだけ、あるいは相槌を打つだけであると、話し手はすべてを理解されているものと思ってしまいます。しかし会話が言葉と言葉でやり取りされる以上、誤解や思い違いをする余地は常にあり、それを最小限に抑えるためにも、聞き手からの確認や質問は大切です。
質問には「はい」か「いいえ」で答えることができるクローズドクエスチョンと、自由な回答を求めるオープンクエスチョンとがあります。このうちクローズドクエスチョンは、回答者にとって、ともすれば尋問を受けているように感じられてしまいます。また答えが「はい」か「いいえ」で途切れてしまえば、それ以上の情報を引き出すことが難しくなります。そのためある程度打ち解けてきた段階での会話では、オープンクエスチョンを使うと、話し手の頭の中にある様々な情報を取り出しやすくなります。
話し手が気分良く話を続けるためには、「受け容れられている」と感じることが大切です。必ずしも内容や意見に賛同しなくても、まずは話し手が話していることをそのままに、受け止める度量が聞き手には必要です。会話はギブアンドテイクであり、相手への贈り物であることを意識しましょう。話し手が一方的に自分の考えを押し付けるものではないのと同時に、聞き手が力任せに話を遮って自分の意見を捲くし立てたり、あるいは頑固に耳を塞いでしまうものでもありません。また話の内容に対して「共感」を示すことで、話し手との間に隔てがなくなります。